制作の手順と注意点

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 水彩教室で「どこから塗り始めたら良いのですか?」

という質問を頻繁に受けます。

 

特に水彩を始めたばかりの方は、最初はどうして良いか分らず、

つい質問したくなるのも良く分ります。

 

このページでは、手順の基本からまずお伝えし、様々な工程での

での注意点やポイントなどを順を追って具体的に述べて行きます。

 

 

手順とは

時には基本的な手順で描かないことがある

しかし基本的な手順は覚えておくと良い

 

実は、手順には

絶対的な手順というものがありません。

つまり必ずこう描いてくださいという決まりが存在しないのです。

 

確かに基本的な手順というものがあり、最初にそれを習得することが肝心です。

 

しかし常に基本の型通りに描くとは限りません。

現に、作家によって描く順序は千差万別ですし、

また描く絵や表現方法によっても当然手順は異なります。 

 

 

 基本的な手順

最初に習得すべき骨組みとなる手順です。

これが基となり様々な方法に応用できる

言わば「手順雛型」のようなものです。

 

では下の絵をご覧ください

 

 ようなも手順の基本を大まかに言うと

①デッサン⇒ ②下塗り⇒ ③中か塗り⇒ 仕上げ

です

 

1デッサンをする

ほおずきの輪郭を正確に描く。表面の窪みやシワも少し描くと、立体感を感じさせる。

 

2下地色を塗る

ほおずき全体に水を塗り、右に黄色、左に黄緑を置きグラデーションをつくる。

 



3中塗りをする

右からオレンジ・黄・黄緑の順に塗りグラデーションを再度つくる。注:画面は濡らさない。/ 左の細部を描き始める。

 

4仕上げをする

細部の影を描き、凹凸を感じさせるようにする。完成。

注:影の形はこの時点で改めてデッサンしても良い 。

 


 

まず基本の手順をしっかり頭の中に

入れておきたいです。

 

要するに、

「明るい色から暗い色へ」

「ぼんやりからはっきりへ」

「大きな塗りから細かい塗りへ」

と進んで行くのが基本です。

 

では簡単な絵で基本手順をもう一つ


1下地色を塗る

ケーキ全体に水を塗り、淡い色を塗る(注:ケーキの最上部は特に淡く)。直ぐに左の影を塗り、ケーキ色との境目が混ざるにする。

 

2中塗りをする

ケーキ中央の果物と上部端の陰影を描く。ケーキ手前を再度濡らし、茶系の色を所々に置く。

 



3更に中塗りをして、細部も描き始める。

クリームの陰影を描き始める(注:光源は右上にあること意識すると描きやすくなる)。

 

4細部を描き込み、完成

3で描いた表情を更に細かく描いていく。果物、白いクリームの陰影を描き完成


 

「明るい色から暗い色へ」「ぼんやりからはっきりへ」

「大きな塗りから細かい塗りへ」

これが手順の基本なのね。

 

 

 始めは大らかに塗り、仕上げは細かく描く、

という手順で描けば、無理なく進行できます。

 

と言うことで、なぜこのような手順が基本なのか、

理由を下に箇条書きにしました。

 

なぜ明るい色を先に塗る?

明るい色を先に塗り、暗い色を後に塗ると

自然で発色の良いハッキリとした色合いになるからです。

 

反対に暗い色→明るい色は どんよりとした発色の悪い色になります。

 

なぜ先にぼんやりと描く?

実際の濃淡や陰影現象がそのようになっているからです。

目にはっきりと見えるトーンもあれば、

目にはあまり見えない淡くぼんやりとしたトーンもあります。

 

見落としがちな淡くぼんやりとしたトーンを発見し、

それを最初に塗ることで自然で全体感のある下地が生まれます。

更に発色も良くなります。

 

 

なぜ大きな塗りを先にする?

上の「ぼんやり」と似た様なことですが、

最初に大まかな塗りをすることで、

自然な色調や立体感の土台が作れます。

 

そこから徐々に細かく描いて行くという手順が

無理のない自然な明暗を生み出します。

 

 

では以上のことを踏まえて、もう1点

1滲みで下地色を塗る

レタスの下半分を水で濡らし色を置く。

 

2下地色を全体に施す

レタスの上半分を水で濡らし色を置く。

 


3仕上げをする

レタスの細部を描く(注:必要に応じてぼかす)。完成

 


 

上のレタスで、

明るい色→暗い色、

ぼんやり→くっきり

大きな塗り→小さな塗り

 

がよくお分かりいただけたかと思います。

 

 

では、少し複雑なものを描いてみます。

1下地色を塗る

籠や中の野菜に大まかな陰影色(ブルーグレー系)を塗る。

 

2下地塗りを進行させる

籠の中の野菜に陰影色を塗り、立体感が出る様にする。籠の網穴に暗い色を塗る。

 


3地塗りを進行、中塗りの開始

各箇所の陰影を塗る。野菜に固有色を塗り始める。

※どこまでが下地塗りで、どこからが中塗りか、明確な決まりはありませんが、ここでは主に固有色の塗り始めが中塗りの開始とします。

 

4中塗りを進行

各箇所に適宜 陰影色・固有色を塗る。

 


5更に中塗りをする

各箇所に濃いめの色を塗り、深い色調にして行く。

 

6仕上げをする

まだ淡い箇所は更に彩色。各箇所の最も暗い陰影、籠の細部(主に線)などを描き、完成。

 


 

基本的な手順は少し前後しても構わないのね。

 

 

上の工程で、基本の手順が少し前後しているのがお分かりでしょう。

 

つまり先述した基本の三要素

・明るい色から暗い色へ、

・ぼんやりからはっきりへ、

・大きな塗りから細かい塗りへ

と異なる工程がある訳です。

 

このように、描く絵によっては基本の手順から

逸脱することが多々あります。

 

基本の手順に忠実なあまり、柔軟性に欠けることの

無いようにしたいものです。

 

 

では基本手順に更に変化を加えてみます。

※基本と異なる手順の時は緑の文字で記しています

1基本通りに下地色を塗る

紙を濡らし、青系や紫系の色を置き滲ませます。

注:紙全体に水を塗るのではなく、滲ませたい箇所だけに水を塗り滲ませる、という具合に部分的に進行して行く。

 

上=花瓶の取っ手を描く

花瓶の取っ手を やや濃い色ではっきりと描く。★地塗りはせず、一気に濃いめの色を塗る方がガラスの質感が出やすい。

3下=カラー(花名)の陰影を描く

 カラー(花名)の陰影を描く。★白い花なので、中塗りや多彩な色を塗る必要が殆どない。

 



4上:花の陰影を描く

★本来なら明るい色から塗るが、花の影から描く。

5下:花の固有色を塗る

ガーベラ全体に固有色(オペラ+パーマネントイエローオレンジ)を塗る。★影→明るい色(固有色)は基本と逆の手順。陰影と同系のピンク色なので、濁ることはない。

 

6机に投影された影を描く

影色を端から順に塗っていく。最初に塗った下地色が生きる。注:今後重色することは殆ど無いので濃いめの色を塗る。


7上:ガーベラの仕上げ/ 花の周りを描く

ガーベラにアクセントをつける。その周辺のも描いていく。

8下:布の陰影を描く/ 花瓶の仕上げをする

布の陰影をぼかしながら描く。注:花の濃い陰影部分も所々そっと塗る。★これも花の濃い陰影の上に、明るい布の陰影を乗せているので、基本と逆の手順。しかし両者は同じブルー系なので、問題はない。

花瓶本体や取っ手などに濃い色を所々塗る。

 

9他の花、各箇所を仕上げる

フリージア(黄色の花)も陰影→固有色の順で描く。

花の周辺や背景など、まだ淡い箇所を塗り最終的な濃さにする。最後に所々アクセントをつけて完成。

 

 

 


 

結局、絵が不自然にならなければ、

手順を結構変化させても構わないってことね。

 

基本手順に変化を加えていることが、お分かりですね。

 

更に基本から離れた描き方をしてみます。

今度は淡い色からではなく、濃い箇所、

つまり陰影から描き始めてみます

 

 

陰影から描く 

陰影から描くと 立体感を表現しやすい

他にもメリットが・・

 

陰影から描き始めることは、基本から言えば反対の手順です。

しかし

陰影が濃いめの物はこの手順がおすすめです。

 

最初に陰影を描き込んでおけば、その後で淡い色を塗り

何度っも塗り重ねるというリスクを回避すことができます。

そして何よりも立体感が出てきます。

 

例えば下の花のように先に陰影を描いたら

概ねの立体感が表現できます。

 

あとは同系の明るい色で着彩をすれば良いので、

手順としてはとても分かりやすいです。

 

それに上から明るい色を乗せることで、

陰影がソフトになり、花の質感が表現できるのも好都合です。

 


1花の陰影から描き始める

 

2ガラス器の濃い箇所を描く

 


3花の明るい部分を塗る

/ ガラス器の明るい部分を塗る

 

4花やガラス器にまた色を塗り最終的な濃さにする

/ 最後に濃淡やアクセントのチェックをして完成。


 

 陰影から描き始めても、最終的に発色が良好なら支障はありません。

 

 

 

陰影が強めのもの、立体感を表現したい時は、

グリザイユがおすすめ

 

上の花のように陰影から描く方法を、グリザイユ技法と言います。

 

グリザイユとはフランス語でグレーという意味です。

予め対象物の陰影部分を描き、その後で

物の色(固有色)を塗って行く手法です。

 

グレーと行っても完全なグレーではなく、対象物の色に似たような

渋めの色と考えていただければ良いと思います。

 

陰影が強めの物、或いは立体感を表現したい時にはおすすめです。

最初に陰影部分を描き、後は固有色を塗れば良いので、

着彩にあれこれと悩むことがありません。

 

 

グリザイユ1

1陰影を描く

洋梨の右側に陰影色(ペインズグレイ)をややたっぷりと塗り、日向部分との境目をぼかす。直ぐに陰影色の所々に濃いめの色(濃いペインズグレイ)を置き滲ませる。注:ぼかしは非常にぼんやりの所、僅かにぼんやりの所など、箇所によってぼかし方を変える。

2固有色を塗る

陰影色をよく乾かし、洋梨全体に固有色(リーフグリーン+ラベンダー微量)を塗る。注:固有色が乾かないうちに、濃くしたい所に同じ色を置き濃淡を作る。

 


 

グリザイユ2


①陰影を描く:ワサビとスダチの陰影を描く

②固有色を塗り始める:ワサビとスダチの色を塗り始める

③固有色を塗る・細部を描く:ワサビとスダチの色を徐々に濃くして行き、細部を描き完成。


 

陰影から描くと立体感を表現しやすいのね。

 

この手順、基本から外れているけど

絵によってはこの方法も大切なのね。

 

 

風景をグリザイユで描いてみます

グリザイユ3

グリザイユのグレーは単なるグレーではない

グリザイユの陰影色はグレーだけではありません。

下の風景画では物の色に近い陰影色で塗っています。

その方が絵の彩度を落とすことなく、自然な仕上がりになります。

1陰影を描く

各箇所の陰影を描く。モノクロではなく色彩のある陰影色を塗る。注:陰影部分と日向部分との境目は丁寧に描く。

 

2固有色を塗り始める

日向部分に固有色を塗り始める。注:固有色が陰影部分にも少し入る方が自然。

 


3固有色を塗り進め、細部を描き始める

各箇所に固有色を塗り進め、深い色合いにしていく。

屋根や岩・草の細部を描く。注:陰影部分の細部はあまり描かなくて良い。

 

4細部を描き、完成

細部を小筆で描き込む。最後に濃淡のチェック(まだ色が淡い、彩度が低い箇所の彩色)をして完成。

 


 

また陰影からの手順で、少し複雑な物を描いてみます。

1野菜の暗い部分から描き始める

画面中央の暗い部分を適度にぼかしながら描く。注:色が薄いと何度も重色しなくてはならないので、程よい濃さで。

 

2各野菜の陰影を描く

1と同じ要領で各野菜の陰影を描く



3各野菜の固有色を塗り始める

各野菜に彩度のある色を塗っていく。注:最初から固有色をべったり塗るのではなく、陰影と立体感を意識しながら、徐々に描いて行く。

 

4各野菜の固有色を更に塗り進める

各野菜を徐々に濃くしていく。注:平面的にならないように、やはり立体感や濃淡に気を付けて。

 



5各野菜の細部を描き始める

トマトの蔕(ヘタ)、玉ねぎの筋、とうもろこしの粒の陰影、紫キャベツの切り口などの細部を描き始める。

 

6中塗りをして濃くし、細部を描いて完成

各野菜に中塗りをして深い色合いにする。各野菜の細部を描き込み、完成。

 


 

陰影を先に描くメリットは幾つかある

① 陰影がソフトになる

(後でその上に色を乗せるので)

 

② 陰影をぼかした時にキレイにできる

まだ紙が白く新しい状態なので、色斑の心配がない

 

③ 明暗をコントロールしやすい

実物の明暗と同じ様に描き進めることが出来るので、

濃淡のバランスを崩すことがない。

逆に明るい色から、は実物と異なる濃淡といういことになります。る)

 

 

ここまでの手順のまとめ

 

要するに 絶対的な手順というもはありません。

基本の手順を軸に、時には陰影から、時には細部から

描いたりと 柔軟に対応しましょう。

 

 

 

2ページ目に続く